2014年7月17日木曜日

[歌詞] The Masterplan (Oasis / 1995)


OASIS (1991-2009)
19年!なんと19年前ですよ。年をとったなぁ……5/14に20周年記念デラックス版の"Difinitley Maybe"も発売され、9/24には"(What's the Story) Morning Glory"がそして年内に(おそらくクリスマス商戦に)"Be Here Now"とオアシス関係者の小銭稼ぎが開催されていますが、こういった小銭稼ぎは賛成です。しかし、世界中のどこよりも日本の発売日が早いってのが、日本でのマーケティングを重視している証拠。よく言えばコアなファンがいる、悪く言えばいいカモになっているのですが、日本における洋楽市場の凋落っぷり(まあ邦楽もですが)を思えば、売れて欲しいですね。そんなわけで本日は上に挙げたオリジナル・アルバムには収録されていない(笑)シングルB面曲の"The Masterplan"です。

このブログは完全に私の個人的な趣味なので、(日本では)マイナーなアーティストだったり、アルバムの誰も憶えていないような曲だったり、シングルのB面曲だったりすることが多いのですが、今回は珍しくビッグ・ネームです(しかしB面)。でもB面曲だけをあつめたアルバム"The Masterplan"(1998)のタイトルトラックですから。

普段訳している歌詞は日本語訳がほとんどないので、他人の訳を目にする機会がありませんが、さすがオアシス。今回はたっぷりありました。
1) つれづれ。
2) (What's the Story)ヨーガク?
3) Acquiesce
4)【歌詞・日本語訳】OASIS - THE MASTERPLAN ライブ動画
5) 月夜ニ君ノ音想フ♪ 洋楽和訳日記
6) 休日の午後には
7) 洋楽好きも恋をする"Rock'n'Love"
8) Fictive Reality ver.3  
しかしそのどれもが翻訳水準に達してない上に、思い込みの激しい解釈がたっぷり振りかけられたりしていて、食傷気味なのも事実。いい機会なので今回はそういった訳がなぜダメなのかを含めて紹介していきます。さあ、いきましょう。


Take the time to make some sense
Of what you want to say
And cast your words away upon the waves
自分の言いたいことがわかるまで時間をかけたら、
感情の高まりに乗せて言葉を吐き出すんだ

はじめの文は解説不要でしょう。問題は二つ目の文です。このフレーズは前文とAndで接続されていて、"take"と"cast"は並列の関係にあります。つまりどちらも「おまえ」に対しての命令文なのです。これが理解できていない場合、
×「でないと、荒波に言葉が呑まれてしまう」(1
×「言葉が波にさらわれてしまうよ」(2
×「その主張は『お硬い連中ども』に揉み消されてしまうさ」(2
×「そして、君の言葉は、波間に、さらわれて行く」(5
といった主語が波であるようなトンチンカンな解釈になってしまいます。これでは作者の意図とは正反対です。ノエルは「投げろ」と言っているのです。

こうなってしまう背景には、英語能力うんぬんも当然ありますが、日本語の主語を用いない話し方が影響しているのではないかと。英語でも会話文においては主語の省略はあり得ますが、日本語とは違い、頻発されることはありません。そして省略される場合にはかならず主語がなにかすぐに分かる状況にあります。仮に先ほどの文章を主語の省略として捉えてみましょう。主語はなんでしょうか?波が言葉をさらうという訳から「波」でしょうか?しかし"waves"はすでに文章の一番後ろにあります。"It"を主語にする?では"It"の意味する物は?Itは天気などの表現や"It is ~ to"などでto以下を意味する際に使用されることはありますが、こんな用法はありません。

ポイント1:英文は主語が大事

And sail them home with acquiesce
On a ship of hope today
And as they land upon the shore
Tell them not to fear no more
Say it loud, and sing it proud today
そして、今日奴らを希望という船にのせて
沈黙と共に家まで送り届けろ
奴らが岸に着いたなら
もう心配することはないと言ってやれ
そのことを今日は声高らかに、胸を張って歌うんだ

ここでもAndによって文章が結ばれているため、このヴァース全体が命令文で構成されていることはすぐに見て取れる。これはすべて「おまえ」に「おれ」が命じていることなのだ。まず始めのフレーズは"And sail them home with acquiesce on a ship of hope today"までが一区切りだが、実はこの文章は破格だ。正確には"acquiesce"(動詞)ではなく、"acquiescence"(名詞)でないといけないのだが、前段の"sense"と韻を踏むためにこうなっている。ここでも文章の区切りがわかっていないと
×「ただ黙って従い、今は全てを戻そう。一隻の船に、今日の希望を乗せ」(1
×「主張は心に留めておき、黙って従っておこう。船に、今日の希望を乗せ」(2
×「主張を押し殺し、今は黙って従っておこう。今日のところは希望と言う名の『船』に身を委ね」(2
という原文の意味からかけ離れた訳になってしまう。そもそも"sail O1 of O2"なんて構文はないので、"hope"が目的語になる訳がない。目的語は"them"だ。つまり前段の"your words"なのだ。また"ship of hope today"を
×「"今日の希望"という名の船」(3
と訳しているサイトもあったが、それならば"hope of today"か"today's hope"となるはず。すくなくともコーテーションでくくらないと、そうは訳せない。おそらくライナーノーツの対訳を参考にしたのだろうが、たいていの場合ライナーノーツの訳はゴミだ。この部分は記載されている歌詞と実際に歌われる歌詞に差異があって、"sail them home"が"bring them back"になってたりするが、大意に影響はない。

ポイント2:辞書をひいて構文を確認しよう
ポイント3:ライナーノーツの対訳は信用してはいけない


さて続く部分の"they"も"them"も当然"your words"を指してる。ここまでくるとだいぶ詩に描かれている情景がわかってくるのではないだろうか?つまり、じっくり考えて言葉をひねり出したら、いったん突き放してから、再度言葉を回収する光景だ。これは創作の現場だ。端的にいえば、ノエルが作曲する際の技法を語っている光景だろう。時間をかけて曲のテーマを決めたら、感情の波に乗せてメロディに言葉を乗せ、いったん時間をおいて客観的に観た後、基準まで達した曲にはもう心配はないということだ。それが船と海をモチーフにした比喩表現で語られている。そしてそれが分かれば、なぜ"say it"だけでなく"sing it"なのかが理解できるはず。ちなみに"it"は前文を指す。

And then dance if you wanna dance
Please brother take a chance
You know they're gonna go
Which way they wanna go
All we know is that we don't
Know how it's gonna be
Please brother let it be
Life on the other hand
Won't make us understand
Why we're all part of the masterplan
Say it loud and sing it proud today
それから踊りたければ踊ればいい
お願いだから、一か八かやってみろよ
奴らがなるようにしかならないのは、わかってるだろう
確かなことはどうなるかわからないってことだけ
お願いだからながれにまかせろよ
 それに引き換え人生は
おれたちがみんなマスタープランの一部に過ぎないことを
分からせてはくれないのだから
そのことを今日は声高らかに、胸を張って歌え

コーラスに入っても息の長いセンテンスで歌詞が構成されているので、区切りを読み間違えると、意味がわからなくなる。特に最後の、"Life on the other hand"から"Why we're all part of the masterplan"に至る部分だ。そこがわからないと、以下のようになる。
×人生なんて、俺達に理解され易いようには進んでくれない。俺達自身が、マスタープランの一部なのだから。(1 
×他人依存の人生なんて君はそんなの納得しないだろう、「神の設計図」の一部を担う人生なんてさ。(2 
×人生ってのは永遠に当事者には理解し得ないものさ俺達自身がマスタープランの一部なんだから(3 
×気が付かなくったて人生は他の手に委ねられているんだだれもが人間社会の一員なんだから(4 
×他人の手のひらの人生なんて、僕らには理解できようもない。僕らは、皆、マスタープランの一部なんだよ。(5 
×人生ってのは片方の人間にはわからない俺たちは決められた計画の一部なんだから(6×人生ってのは永遠に当事者には理解し得ないものさ俺たち自信がマスタープランの一部なんだから(7 
×人生は答えを与えてくれはしないけれど全て、俺たちは予定調和の一部だから(8
ここがきちんと訳せていたものは、ひとつもない。"on the other hand"をイディオムだと理解せずに訳しているものすらある。

4.辞書をこまめに引こう

歌詞の内容をみてみると、深い諦観が感じられる。前段で作曲法を指南していた歌い手は、「踊りたいのなら作曲が終わってからにしろよ。お願いだから一か八かやってみろよ」と懇願し、「奴らがなるようにしかならない」―ここでの「奴ら」はおそらく"words"を指すのだろう―、「わかるのはどうなるのかわからないということ」、「流れにまかせろ」とひたすら投げやりな言葉を重ねていく。そして最後には「マスタープランにすぎない」と宣言する。マスタープランってなんだ?

マスタープランなんて言葉は都市計画にでも携わってない限り、耳にしたことはないはずだ。日本語に訳せば基本計画とか総合計画となり、簡単に説明すれば様々な計画の基本となる計画だ。法律に対しての憲法だと理解してもらえばいい。

もちろんこの歌は都市計画についてではない。おそらく、アダム・スミスの「神の見えざる手」のような、我々の背後にある大きな流れについてだろう。それを人格的な存在として神と呼ぶのか、それとも運命と呼ぶのかは自由だが、ノエル・ギャラガーが無神論者であることを考慮すれば「神」という理解は不適切だろう。

I'm not saying right is wrong
It's up to us to make
The best of all the things
That come our way
白を黒と言いくるめようとしているわけじゃない
すべてのことが最高になるようにするのは
おれたち次第だっていうこと

「白を黒と〜」はさらに意訳すれば「詭弁を使おうとしているのではない」だろう。コーラス部分であれほど「流れ」に対して抵抗するなと呼びかけていながら、「おれたち次第」と説明しだす。だから「詭弁ではない」と語るのだ。そしてここでも"It's up~"から"our way"に至までのセンテンスが理解できていないために、意味を捉え損なっている訳が多い。くどいのでもはや引用はしない。

'cause everything that's been has passed
The answer's in the looking glass
There's four and twenty million doors
On life's endless corridor
Say it loud and sing it proud today
なぜなら終わってしまったことはどうにもできない
答えは鏡の中にある
人生の終わりなき回廊には
2400万のドアがあるんだ
今日のうちに大声で言うんだ、そして誇らしく歌え

「終わってしまったことはどうにもできない、答えは鏡のなかにある」とは、鏡に写る自分が様々な経験を経た結果だということだ。つまり過去の失敗や成功の結果が今の自分だということだ。しかし、現状が満足できる物でないとしても、悲観することはないのだ。人生には2400万のドア=たくさんの可能性があるからだ。

この曲は人生の無限の可能性を歌い上げるヴァースと、やってみたところで上手く行くかはわからないと語るコーラスで構成されている。通常の明暗とは逆の構成が憎い。それこそが、この曲を名曲たらしめている理由なのかもしれない。

今回、他人の誤訳を指摘したのは揚げ足をとろうとしてではない。結局のところ、私の訳を含めて、常に誤訳はつきものであり、一つの訳を読んだだけで納得するべきでないと思ったからだ。(しかし、(2)の訳は酷過ぎる。もはや創作といってもおかしくない)


4 件のコメント:

  1. (しかし、(2)の訳は酷過ぎる。もはや創作といってもおかしくない)
    と厳しく指摘を受けましたイシダと申します!
    大変勉強になりました!笑

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  2. イシダです、連投ですみません。
    ちなみに、Don't look back in angerの歌詞はどのように訳されますか?
    是非ともあなた様の和訳を読ませていただきたいものです!
    もちろん、できれば、で構いません!

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  3. やけに偉そうだな。気に食わねぇ

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    1. 他人のブログから和訳ネタを拾ってきて無断転載し、
      この書き方ですからね。
      社会人としてちょっとアレですね。

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