2014年7月5日土曜日

[歌詞][映像] The Test (Chemical Brothers feat. Richard Ashcroft / 2002)

Chemical Brothers
Richard Ashcroft (1971- )



↑ビデオクリップは全画面での視聴をおすすめします。

「ティム・リアリーさんありがとうよ、とファットは思った。あんたと、そのヤクを通じた拡大意識の布教に大感謝だ」––––『ヴァリス

ASKA (1958- )
こんばんは。最近(2014/07/03)、脱法ドラッグの話題が巷を賑わせております。脱法ドラッグでハイになったまま運転して、歩道に突っ込んだ事件で女性1名が死亡しました。痛ましい事故で、何の咎もない被害者の方のご冥福をお祈りする限りです。これ幸いにと、化学式をちょこっと変えて法の網をすり抜けた脱法ドラッグがどんどん規制されて、脱法のくせに違法ともはや意味がわからなくなっていますね。そういえば、今日チャゲアスのASKAが釈放される様子が放映されて、湾岸署にこれでもかってほどメディアがいましたが、主要紙はもっと重要な事件を扱えよ……おっと話が逸れました。

かように日本での薬物使用は厳罰によって法規制され、社会的制裁も半端なものじゃないのですが、海外のロックミュージシャンのインタビューなんか読むと、あっけらかんと薬物使用を語っていて不思議な気持ちになったことがあるのは私だけではないはず。覚醒剤ごときで(注:当ブログは薬物使用は推奨していません)殺人犯並のバッシングを受けてレコード会社から契約まで切られてしまうASKAをみていると、この温度差はなんだと思う人はいると思います。

薬物の社会への浸透度が日本と比べ物にならない現状(警察の手がまわりきらない)、ハードドラッグを防ぐためのソフトドラッグ(主に大麻)の解禁などの理由があり、欧米と日本では薬物に対する対応が大きく異なります。イギリスじゃ大麻は自転車の無灯火レベルだとか以前読みましたが、実際私がヨーロッパにいた頃にはあっちこっちで大麻のかほりが漂ってました。

どうも学生の時分はリクリエーションとして暗黙されている節もあるらしく、前の合衆国大統領も学生時代の使用を告白してバッシングを受けてましたね。ちなみに、この文章を読んでいる人の中には試してみたくなる人もいるかもしれませんが、使用は、特に日本国内では、お勧めしません。はっきり言って、社会的リスクと天秤が釣り合いません。合法ドラッグである酒をお勧めします。

まあ、一流ミュージシャンやハリウッドスターは現代の王侯貴族ですから、金も権力もあり、ヤクほしさに物乞いをしたり体を売ったりする必要もなく、面倒をみてくれるマネージャーが高額なリハビリ施設に入れてくれて、社会的制裁をうけずに仕事に復帰できますから。一般人と違うのは事実です。

で、そんなドラッグカルチャーにも当然流行というものがありまして、60年代から70年代初頭の花形だったのがリゼルグ酸ジエチルアミドことLSD(別名:アシッド)です。ヒッピーカルチャーの申し子となったLSDはその強烈な幻覚作用が、当時の流行だった東洋思想、博愛主義、サイケデリックロック、ビートニクなどと合致いたしまして、それはそれは大人気だったのです。

Kenneth Kesey (1935-2001)
Furthur号
ポール・マッカートニーがLSD使用をインタビューで発表したとか、ビートルズの楽曲のイニシャルがLSDになるとか、アレン・ギンズバーグが詩の題材にしたとか、話題にはこと欠きませんが、その中の一人に名作『カッコーの巣の上で』を書いたケン・キージーがいます。彼はFurthur号と命名したサイケデリックペイントの施されたバスに乗り、全米で「アシッド・テスト」と呼ばれたLSDを広めるツアーを行います。

長い長い前置きを書きましたが、ここまでで歌詞の前提となる説明は終了です。つまりこの歌は「アシッド・テスト」の歌なんです。

O-o-o-o-oh
Can you hear me now?
Can you hear me now?
Can you hear me now?
Can you hear me now?
yeeeh
Am I coming through?
Am I coming through?
Is this sweet and pure and true?

これが聞こえるかい?
これが聞こえるかい?
これが聞こえるかい?
これが聞こえるかい?
そう
おれの声が届いているかい?
おれの声が届いているかい?
それは甘美で純粋で真実なものかい?

深いリバーブの掛かったホーミーみたいなボーカルが、質問を投げかけます。質問を投げかけられているのはLSDを摂取した人物で、幻覚状態での聴覚がよく再現されていると思います。

Devil came by this morning,
Said he had something to show me
I was looking like I've never seen a face before
Here we go now, let's slide into the open door

今朝やってきた悪魔は
おれに見せるものがると言った
やつはおれが見たことも無いような表情をしてこう言った
さあ一緒に、その開かれたドアに滑り込もう

悪魔はキージーのことでしょうね。"a face"はちょっと解釈に苦しみましたが、キージーの表情じゃないかと推測します。よって"I was~"は「おれはまるでおれがそんな表情をみたことがないようだった」=「おれが見たことが無いような表情をして」との訳になります。"Here we go~"はキージーの誘いの科白で、開かれたドアはオルダス・ハクスリー著の「知覚の扉」(The Doors of Perception)に由来していると思われます。ちなみにバンド名のドアーズはこれに由来します。

Pictures and things that I've done before
Circling around me out here on the floor
I'm dreaming this and I'm dreaming that
Regretting nothing
Think about that

いままでに見て来たものやしてきたことが
床の上にいるおれの周りを回りだし
おれは様々な夢をみている
何も後悔することはない
その様子を想像してみろよ

このヴァースでは最後の"Think~"が命令文であるのがポイントです。つまり、被験者に対して、キージーがLSD摂取時の具体的な幻覚を説明している文章になっているのです。

I'm seeing waves breaking form to my horizon
Yeah I'm shining
I'm seeing waves breaking form to my horizon
Lord, I'm shining 

おれの限界に向かって崩れ落ちる波の形が見える
ああ、おれは生きている
おれの境界を超えようとする波形が見える
ああ、おれは輝いている

"my horizon"は「おれの地平線」ではないですよ。この場合は「(認識・知識・経験・理解などの)限界、範囲」と言った意味です。ただ詩的な表現ですので地平線と訳しても別段問題はありませんが。ここではLSDによって、意識が拡張され多幸感に溢れている状態が描写されています。美しいですね。"shining"は単純に「輝いてる」でもいいですが、人や表情の場合は「生き生きとしている」といった意味もあります。日本語でも「笑顔が輝いている」みたいな表現があるので分かりますよね。

Are you hearing me?
Like I'm hearing you?
Are you hearing me?
Like I'm hearing you?

聞こえるか?
おれにおまえが聞こえるように
聞こえるか?
おれにおまえが聞こえるように

LSDを摂取すると五感が研ぎ澄まされた上に、歪みますので、通常の出来事は全く異なって感じられるようになります。ここでは摂取した人間が別の摂取した人間に対して、どう聞こえるの確認しています。

You know I always lost my mind
I can't explain where I've been
You know I always lost my mind
I can't explain where I've been
You know I almost lost my mind
I couldn't explain what I've seen
I have been down my ???
to find that the images are fading away

おれはいつだって正気をなくす
どこにいたのか憶えていないんだ
おれはいつだって正気をなくす
どこにいたのか憶えていないんだ
ほとんど気違いだ
なにを見たのかわからないんだ

LSDでトリップすると至福の体験が味わえるらしいですが、残念なことにそれをそのまま音楽にするのは難しいらしいですね。トリップしながら録音して、正気に返ってから聴き直すと、残念な結果に終わるようです。この歌詞は、最後の部分でなんと歌っているか分からずに?になっている箇所がありますが、"way"とかじゃないのかなと思います。そうであれば、「消えていってしまうイメージをつかむために、トリップしたのに」といった意味です。

I'm seeing waves breaking forms to my horizon
Yeah I'm shining
I'm seeing waves breaking forms to my horizon
Lord I'm shining yeah

おれの限界に向かって崩れ落ちる波の形が見える
ああ、おれは生きている
おれの限界を突破しよとする波が見える
ああ、おれは輝いている

Are you hearing me?
Like I'm hearing you?
Are you hearing me?
Like I'm hearing you?

聞こえるか?
おれにおまえが聞こえるように
聞こえるか?
おれにおまえが聞こえるように

You know I always lost my mind
I can't explain where I've been
You know I almost lost my mind
I couldn't explain the things I've seen
But now I think I see the light
Now I think I see the light

おれはいつだって正気をなくす
どこにいたのか憶えていないんだ
ほとんど気違いだ
なにを見たのか説明できない
だけど今わかった
そうおれは光明に包まれた

繰り返しのやたら多い歌詞ですが、この繰り返しの多さこそが陶酔感を誘います。宗教音楽の多くがミニマルな反復によってトランス状態を引き起こすことは知られていますが、現代のクラブミュージックでも同じです。反復は踊りやすいですし、陶酔しやすいんです。歌詞に戻りますが、ようやくトリップ状態でなにかつかめたようですね。

Lend me your hand
Lend me your hand
Lend me your hand
Lend me your hand
Lend me your hand

さあ手助けしてほしい
さあ手助けしてくれ
さあ手助けしてほしい
さあ手助けしてくれ
さあ手助けして

I'm seeing waves breaking form to my horizon
Yeah I'm shining
I'm seeing waves breaking form to my horizon, lord
I'm shining

おれの限界に向かって崩れ落ちる波形が見える
ああ、おれは輝いているんだ
おれの境界を突破しようとする波が見える
ああ、おれは輝いている

Oh are you hearing me?
Like I'm hearing you
Oh are you hearing me?
Like I'm hearing you?

聞こえるか?
おれにおまえが聞こえるように
聞こえるか?
おれにおまえが聞こえるように

You know I always lost my mind
But now I'm home, and I'm free

わかるだろう、おれはいつだってイカれてる
でもいまは家にたどり着いた、おれは自由だ

ここまできて、ようやくテスト終了です。被験者は帰宅しました。

Did I pass the acid test?
Did I pass the acid test?
Did I pass the acid test?
Did I pass the acid test?
Did I pass the acid test?
Did I pass the acid test?
おれはアシッドテストに受かったのか?
おれはアシッドテストに受かったのか?
おれはアシッドテストに受かったのか?
おれはアシッドテストに受かったのか?
おれはアシッドテストに受かったのか?
おれはアシッドテストに受かったのか?

You'd better go to bed now (20 times)
おまえはもう寝たほうがいい

で、帰宅すると被験者の心には疑問が沸いてきます。果たしてあの体験は意識を十分拡張できたのだろうかと。いろいろ考えた後に、本人の心か、あるいは同居している人間かに、「早く寝ろ」と言われます。

My heart and soul, they are free
My heart and soul, they are free
おれの心と魂は自由だ
おれの心と魂は自由なんだ

You know I almost lost my mind
but now I'm home and I'm free
おれはほとんど正気をうしなっていた
でも家にたどり着いたんだ、おれは自由だ

Did I pass the acid test?
おれはアシッドテストに受かったのか?

この曲はサウンド、歌詞、ヴィデオとどれをとっても非常に秀逸な出来で、素面の人間にはうんざりするような長いインスト曲と比べて、リチャード・アシュクロフトお得意の一人ビーチボーイズみたいなヴォーカルが曲調にマッチして、ドラッグソングとしては非常にわかりやすく内容を伝えてくれていると思います。
私自身はタバコはおろか酒すらほとんど飲みませんが、日常に非日常をもたらすためにある種の薬物は効果的であり人生を豊かにしてくれると思っています。大麻支持者がよく持ち出すように、タバコの依存性のほうが高いこともまた事実であり、また大麻が禁止されているのにもかかわらず、アルコール依存症が予備軍を含めると100万人以上いる中で許可されているという事実は、歴史的背景や利権が複雑に絡み合った結果です。ただ、「飲んだら乗るな、飲むなら乗るな」の標語通り、どんな物も使用法を誤れば不幸な結果を招きます。法規制のいかんに関わらず、適切な使用法を守り、誰かが悲しむことの無いように。(注:当ブログは違法行為は支持しません。使用したいのなら、合法の場所で使用するか法改正を訴えましょう)


小池桂一のウルトラヘヴン
幻覚描写において最高の傑作。

0 件のコメント:

コメントを投稿