2010年4月11日日曜日

[書評] 雨天炎天 (村上春樹)

僕は旅が好きだ。といっても、週末になるたびにしょっちゅうどこかへ出かけるというわけではない。おまけに基本的には家からすら出ない。別に週末に限らずとも、社交性は低い。でも、長期間の休みが手に入ると、それをまるまる使って、どこか遠くに行きたくなる。それはたいてい日本国外で、あまりメジャーではない場所だったりする。

「旅行というのは本質的には、空気を吸い込むことなんだと僕はそのとき思った。おそらく記憶は消えるだろう。絵はがきは色褪せるだろう。でも空気は残る。少なくともある種の空気は残る」
もちろんメジャーでないといっても、そこは観光地であるわけで、ある程度の認知度は獲得されている場所だ。そこには名所があり、土産物屋があり、ホテルがある。そこで何をするのか、といえば、ホテルに宿泊し、名所を尋ね、土産物やを冷やかすぐらいしかない。なにが楽しいのかとよく問われる。それは旅をしない人にはうまく理解できないのかもしれない。場所にはその土地固有の空気みたいなものがあって、それが場所によって異なり、ひとつも同じ場所がないこと。そして完全に馴染みのないその空気を体感すること。それはほかの何かには代えることのできない行為なのだ。