2010年5月8日土曜日

[歌詞] We're All Going To Hell (The Basterd Fairies)


All you Mormons who like cussing, you are going to hell
All you preachers who like fucking, you are going to hell
Little boys that choke the chicken, you are going to hell
It’s the nature of evolution, the dinosaurs went to hell

呪うことが好きなお前らモルモン教徒はみんな地獄いき
ファックが好きなお前ら説教師はみんな地獄いき
ニワトリを絞め殺すイタズラ好きのガキはみんな地獄いき
進化の摂理で恐竜は地獄へいってしまった

Hell hell hell it’s a wonderful place
It’s a place of fire and brimstone

地獄、地獄、地獄は素晴らしいところ
炎と硫黄でできた場所

All you Christian politicians, you are going to hell
Magic Jesus apparitions send you to hell
Buddhist monks without god you are going to hell
Those of you dissecting frogs, you are going to hell

お前らクリスチャンの政治家はみんな地獄いき
奇跡で現れたキリストがお前らを地獄に送ってくれる
お前ら神を信じない坊主はみんな地獄いき
カエルを切り裂くやつはみんな地獄いき

Hell hell hell it’s a wonderful place
It’s a place of fire and brimstone

地獄、地獄、地獄は素晴らしいところ
炎と硫黄でできた場所

(talking)
I need a beer
-Can opening-
Ha-ha that was pretty good
Ahh. Okay

All you Catholics wearing condoms, you are going to hell
All us fatties eating bonbons, we are going to hell
Unbaptized babies learn to limbo, purgatory is hell
And your religion is a gamble and you are going to hell

カソリックのくせにゴムをつける奴らはみんな地獄いき
ボンボンが食べてるわたしたちおデブちゃんは地獄いき
洗礼を受けてないくせにリンボーダンスを覚えた赤ちゃん、煉獄は地獄だよ
お前の宗教はばくちみたいなもの、お前らみんな地獄いき

Hell hell hell it’s a wonderful place
It’s a place of fire and brimstone

地獄、地獄、地獄は素晴らしいところ
炎と硫黄でできた場所

Check this shit out x 2
It’s gunna change your life x2

このクソをみてみなよ
あんたの人生を変えてくれるよ

There once was a man who thought that if he ate all the pages in the bible
he could kill most anything
In 1913 he died of a stroke when he tried to eat the book of kings
Eat the book of kings x2

かつて聖書のページを全部食べたら
誰でも殺せると思った男がいた
1913年、男は列王記を食べようとしているとこで発作がおきて死んだ
列王記を食べようとしているところで
列王記を食べようとしているところで


ネットを徘徊していたらたまたま見つけたThe Bastard Fairiesのファーストアルバムから。既存の宗教(特にキリスト教)をかたっぱしから「お前らみんな地獄いき」(細木数子みたいですが……)と皮肉る楽しい歌です。

まず槍玉に挙げられているのが、モルモン教徒。ネイティブ・アメリカンの先祖は不信仰のために呪われて肌が黒くなったというトンデモ教義が揶揄されています。そのつぎは教会の説教師。日曜の礼拝で偉そうなことを言ってるんだけど、実際の行動が伴っていないってことですね。そういえば数年前アメリカで聖職者による性的暴力がいくつか明るみに出て問題になりましたね。まあ、その次のガキと恐竜はいいか。

クリスチャンの政治家。政治家ってのはどこの国でも嘘を付くのが商売みたいなもんですからね。どうやってもキリスト教の教義に忠実になれるわけがないんです。神なき仏教徒も地獄いきみたいですね。リチャード・ギアも地獄いき!

カソリックって生殖目的の性交渉を認めていないんです。だからゴムなんてもってのほか。でもね、エイズとか流行ってる現代で、ゴムなしではできないよね。そんな時代錯誤を皮肉ってます。「洗礼をうけていない~」のくだりは意味不明にみえるかもしれませんが、limboにはリンボーダンスって意味と煉獄っていう二つの意味があって、それをかけて遊んでるだけです。宗教ってのはいろいろ種類があって、さらにその中でいろんな宗派に分かれているので、ホント一か八か、のるかそるかみたいなものです。ハズレを引いたら地獄いき。

ところで一番最後のヴァースは謎めいていて難解です。なんで列王記なんですかね。それに1913年に死んだ男って誰なんでしょうか。知っている人がいたら教えてください。

ちなみにこのアルバムはオフィシャルサイトからタダでダウンロードできます。
よかったら聴いてみてください。


2010年4月11日日曜日

[書評] 雨天炎天 (村上春樹)

僕は旅が好きだ。といっても、週末になるたびにしょっちゅうどこかへ出かけるというわけではない。おまけに基本的には家からすら出ない。別に週末に限らずとも、社交性は低い。でも、長期間の休みが手に入ると、それをまるまる使って、どこか遠くに行きたくなる。それはたいてい日本国外で、あまりメジャーではない場所だったりする。

「旅行というのは本質的には、空気を吸い込むことなんだと僕はそのとき思った。おそらく記憶は消えるだろう。絵はがきは色褪せるだろう。でも空気は残る。少なくともある種の空気は残る」
もちろんメジャーでないといっても、そこは観光地であるわけで、ある程度の認知度は獲得されている場所だ。そこには名所があり、土産物屋があり、ホテルがある。そこで何をするのか、といえば、ホテルに宿泊し、名所を尋ね、土産物やを冷やかすぐらいしかない。なにが楽しいのかとよく問われる。それは旅をしない人にはうまく理解できないのかもしれない。場所にはその土地固有の空気みたいなものがあって、それが場所によって異なり、ひとつも同じ場所がないこと。そして完全に馴染みのないその空気を体感すること。それはほかの何かには代えることのできない行為なのだ。

2010年3月29日月曜日

[歌詞] Submarine Symphonika (The Submarines)



If you live in the city
And you want it to burn
Because you think nobody could learn
The delicate demons and
Loneliest ways of a heart
Thats been broken

もしあなたがこの街にいて
誰も華奢な悪魔と
壊れてしまった心の孤独すぎる面を
理解しないと感じて
この街を燃やしてしまいたいのなら

Say what you will,
Love finds you even when,
You've given it up

どうしたいのか言ってみて
愛はあなたがあきらめたときでさえ
あなたを見つけてくれるから

One after another
You've seen love affairs turn
From the glorious start
To the crash and burn
But Now that you've promised never again
It's exactly when you'll fall in

次から次へと
恋愛が輝かしいはじまりから
粉々になって燃え尽きるのを
あなたは見てきた
でもあなたが「もう二度と繰り返さない」と誓ったときから
あなたは恋に落ちているのだから

You've sworn off clubs and bars
Fridays with the girls
You say homes where you'll be
But soon your own sweet love
Who needs you'll be lying in your arms

あなたは金曜日に女の子たちと
クラブもバーも行かないと誓った
家にぜったいいるって
でもすぐにあなたの腕の中にいたいと思う
あなたのかわいい女の子があらわれる

Say what you will
Love finds you even when,
You've given it up

どうするのか言って
愛はあなたがあきらめたときでさえ
あなたを見つけてくれるから

Everybody deserves to be adored
Why would you settle for less
When the world gives you more?

だれもが敬愛される価値がある
なのにどうしてあなたはそれで満足しているの
世界があなたにまだまだ与えてくれるのに

The Hurt has you now
But soon it'll make you strong
And your loveliness goes on and on

今はつらいかもしれない
でもすぐにあなたはもっと強くなれる
あなたの魅力はまだ続いていくんだから

Say what you will
Love a heart thats been broken
Love finds you even when,
You've given up

どうしたいのか言って
壊れてしまった心を愛して
 愛はあなたがあきらめたときでさえ
あなたを見つけてくれるから

Say what you will
Say it again and again
Until the whole world knows about it
Love finds you even when,
You've given up

どうしたいのか言って
何度も何度も言ってみて
世界中がわかってくれるまで
愛はあなたがあきらめたときでさえ
あなたを見つけてくれるから

The Submarines (2006- )
iPhoneのCMに使われて、気になったので探してみたら見つかった曲です。この曲以前にもほかの曲が使われたことがあったみたいですね。もともとそれほどメジャーなグループではなかったらしく、あまり情報がないのですが、LA出身の男女二人(フィッツジェラルドの孫!)のユニットらしいです。キラキラポップ感がたまらないです。歌詞は読んだとおりなので解説しません。



[歌詞] Suffer Little Children (The Smiths)



Over the moor, take me to the moor
Dig a shallow grave
And I'll lay me down

沼地まで、沼地の奥につれていってほしい
浅い墓穴を掘ってくれ
僕はその中に身を横たえるから

Over the moor, take me to the moor
Dig a shallow grave
And I'll lay me down

 沼地まで、沼地の奥につれていってほしい
浅い墓穴を掘ってくれ
僕はその中に身を横たえるから

Lesley-Anne, with your pretty white beads
Oh John, you'll never be a man
And you'll never see your home again
Oh Manchester, so much to answer for

 レズリー・アン、君はかわいらしい白いビーズといっしょに
ジョン、君は大人にはなれないんだ
そしてきみたちはもう家を見ることはないんだ
マンチェスター、君には答えることがたくさんある

Edward, see those alluring lights ?
Tonight will be your very last night

エドワード、あのうっとりするような光がみえるかい?
今夜は君のほんとうに最期の夜になる

A woman said : "I know my son is dead
I'll never rest my hands on his sacred head"

 ある女性が言った「私の息子が死んでいることはわかっているわ
私が息子の祝福された頭の上に手を置けることはないんだわ」

Hindley wakes and Hindley says :
Hindley wakes, Hindley wakes, Hindley wakes, and says :
"Oh, wherever he has gone, I have gone"

ヒンドレーは目覚め、こう言う
ヒンドレーは目覚め、目覚め、目覚め、こう言う
「彼のいった所にはすべて私もついていきました」

But fresh lilaced moorland fields
Cannot hide the stolid stench of death
Fresh lilaced moorland fields
Cannot hide the stolid stench of death

しかし鮮やかなライラック色の沼地帯は
無神経な死臭を隠すことはできない
鮮やかなライラック色の沼地帯は
無神経な死臭を隠すことはできない

Hindley wakes and says :
Hindley wakes, Hindley wakes, Hindley wakes, and says :
"Oh, whatever he has done, I have done"

ヒンドレーは目覚めてこう言う
ヒンドレーは目覚める、目覚める、目覚めてこう言う
「彼がしたことはすべて私もしました」

But this is no easy ride
For a child cries :

しかしそれは楽なことではない
泣き喚く子供にとっては

"Oh, find me ... find me, nothing more
We are on a sullen misty moor
We may be dead and we may be gone
But we will be, we will be, we will be, right by your side
Until the day you die
This is no easy ride
We will haunt you when you laugh
Yes, you could say we're a team
You might sleep
You might sleep
You might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !
Oh, you might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !
You might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !"

「だれか僕を見つけて……見つけてくれるだけでいいから
僕らは重々しい霧に包まれた沼地にいるから
僕らはもう死んでるかもしれない、いないかもしれない
でも僕らは、僕らは、僕らは、あなたの隣にい続けるから
あなたが死ぬその日まで
それは簡単なことではないけれど
あなたが笑えば僕らは出没する
そう、僕らはチームなんだ
あなたは眠るだろう
あなたは眠るだろう
あなたは眠るだろう
でも夢は見ない
あなたは眠るだろう
でも夢は見ない
あなたは眠るだろう
でも夢はみない

Oh Manchester, so much to answer for
Oh Manchester, so much to answer for

マンチェスター、君には答えることがたくさんある
マンチェスター、君には答えることがたくさんある

Oh, find me, find me !
Find me !
I'll haunt you when you laugh
Oh, I'll haunt you when you laugh
You might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !
Oh ...
Over the moors, I'm on the moor
Oh, over the moor
Oh, the child is on the moor

見つけて、僕を見つけて!
見つけて!
あなたが笑えば僕は現れる
そう、あなたが笑えば僕は現れる
あなたは眠る
でも夢はみない
そう
沼地の奥、僕は沼地にいる
沼地の奥
その子供は沼地にいる

The Smiths (1982-1987)
1984年発売のザ・スミスのファーストアルバム『ザ・スミス』の最後を飾るこの曲は、1960年代初頭に起こった殺人事件を歌っている。ナチズムにかぶれたイアン・ブレディーとそれに感化されたガールフレンドのマイラ・ヒンドレーは、自分たちの優越性を示すために(そして歪んだ性的欲求を満たすために)10台の少年少女を暴行した挙句、マンチェスター郊外の沼地に埋めることを繰り返した。




左:マイラ・ヒンドレー
右:イアン・ブレディー
さて、歌詞を見ていこう。冒頭の「沼地まで~横たえるから」のくだりは、上記の説明から背景は難なく理解できるけれど、どの視点から語られているのかがわかりにくい。「犯人」ではないだろうし、死にたくないと後述している「犠牲者(子供たち)」でもない。ここでは作者の視点が、無抵抗になってしまっている子供たちに乗り移って、半ば客観的に子供たちの視点を再構成しているとみるのがいいだろう。"over"の訳はいささか考えさせられたが、子供たちが埋められた沼地が人目につかないところであれば、いくつもの沼地を越えていった奥にある沼地であろうから、「奥に」と意訳した。

次に登場するレズリー・アンとジョンはともに被害者の実名だ。レズリー・アンは白いビーズ(ネックレス?)とともに埋葬され、ジョンはもう大人には決してなれない。そして二人とも生きて家に帰ることはない。そんな絶望的な状況を描いた後に、擬人化されたマンチェスターには「答えなければいけないことがたくさんある」と問いかけられる。これがCDに付録している小林政美の訳では「償うべきことがおおすぎる」となっているけれど、そうなるとマンチェスターを擬人化しているわけだから、マンチェスターが償う(何を?)ことになってしまうのでいただけない。ここは、擬人化された大地、あるいは空間としてのマンチェスターが、誘拐から殺人までの現場をみていたこと、そしてその肉体である大地に死体を埋められていることから、誰がいつどのようになぜ殺したのかを教えてくれという嘆願がこめられているのだ。

また、マイラ・ヒンドレーが登場する2つのヴァースは、小林訳では「あの子供はどこかへ行ってしまった。私はあの子と一緒だよ」と「あの子が何をしようと私も一緒にやったよ」とあるけれど、これもまた酷い。フレディとマイラの関係は支配的なフレディにマイラが完全に従属するものだったようで、逮捕後のマイラはこう語っている。
「あのひとが地球は平らだ、太陽は西からのぼる、月は生チーズでできている、と言っていたとしても、私はそれを信じたでしょう」
つまり、この2つのヴァースはフレディが命じたことはすべて行ったマイラの従属関係を意味しているのであって、被害者の子供はまったく関係ないのだ。またマイラがフレディを「あの子」といったニュアンスで呼ぶことはどう考えてもありえない。

とても暗い歌詞であまり幸せな気分にはなれない曲でした。でも名曲。


2010年3月16日火曜日

[歌詞] Perfect Day (Lou Reed)


Just a perfect day
Drink Sangria in the park
And then later, when it gets dark
We go home

まったく完璧なある日
公園でサングリアを飲んで
そのあと、暗くなったら
ぼくらは家路につく

Just a perfect day
Feed animals in the zoo
Then later, a movie, too
And then home

まったく完璧なある日
動物園でエサをあげて
それから、映画もみて
家に帰る

Oh it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh such a perfect day
You just keep me hanging on
You just keep me hanging on

そんな完璧な日
君と過ごせてうれしいよ
そんな完璧な日
君のおかげでやっていける
君のおかげでやっていける

Just a perfect day
Problems all left alone
Weekenders on our own
It's such fun

まったく完璧な日
いやな事は忘れて
二人だけの週末旅行
なんて素晴らしいんだろう

Just a perfect day
You made me forget myself
I thought I was someone else
Someone good
 
まったく完璧な日
君は僕自身を忘れさせてくれた
僕がだれか別の人間、
もっとましな人間だったらいいのに
 
Oh it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh such a perfect day
You just keep me hanging on
You just keep me hanging on

そんな完璧な日
君と過ごせてうれしいよ
そんな完璧な日
君のおかげでやっていける
君のおかげでやっていける

You're going to reap just what you sow
You're going to reap just what you sow
You're going to reap just what you sow
   You're going to reap just what you sow...
君は報いをうけるよ
君は報いをうけるよ
君は報いをうけるよ…

Lou Reed (1942- )
映画『トレインスポッティング』で使用されていることで有名な"Perfect Day"ですが、こうやって訳してみると、曲調とは裏腹に悲惨な終わり方をしてますね……もっとも、曲調自体もどこか郷愁をさそうような物悲しいものなのですが。前置きはこれぐらいにして、歌詞を見ていきましょう。

まず1,2ヴァースは穏やかな日曜の午後を描写したような表現が続いていきます。公園でサングリア(赤ワインを薄めて甘くしたもの)飲んで、動物園にいって、映画を見て、暗くなったら家に帰って……極めて健全なカップルあるいは家族の姿です。ここでの人称は"we"だけなので、詳しい関係は不明です。そしてサビの第3ヴァースでは「君」がいるおかげで生きていけるんだ、と繰り返し強調されています。

さて、具体的な表現が使われた1,2ヴァースとは異なり、4,5ヴァースは抽象的な表現が用いられています。そして、内容も幸せな姿から徐々に翳りが見えるようになっていくのです。特に、「ぼくがだれか別の人間、もっとましな人間だったらいいのに」という自己嫌悪が生まれてきます。そして再びサビの第6ヴァースで「君」の重要性が強調されます。

しかし最後のヴァースでは「君は報いをうける」と暗い予言がなされます。

普通に考えれば、主人公は過去の恋人を思い出してノスタルジックな感覚に浸っている。そして自分を捨てた恋人に対して、恨みがましいことを言っている、という解釈が成り立ちます。それで恐らく正解なのですが、ビートルズ以後の洋楽の伝統として、歌詞は常にドラッグとの結びつきが暗示されていることを考えると、これもドラッグ中毒の歌として捉えることもできるようになっています。songmeaningsでもこれがヘロインについてなのかどうかが議論の的となっていますが、ルー・リード自身の私生活を考えれば何らかの薬物中毒に関する歌でもあるんだろうなぁという印象ですね。それにトレイン・スポッティングがヘロイン中毒患者の話だったことも、曲の印象にあたえた影響があるとおもいます。


2010年2月28日日曜日

[歌詞] Hallelujah (Jeff Buckley / 1994)


Jeff Buckley (1966-1997)
今日の楽曲はレナード・コーエン御大の「ハレルヤ」を取り上げたい。御大本人も歌手だが、様々なアーティストによってカバーされている名曲であり、恐らくもっとも有名なバージョンであるジェフ・バックリィによるものを今回紹介する。
ヴィデオクリップを作成したのでリンクを切り替えました。
ぜひ大画面にして試聴後、解説をお読み下されば幸いです。(2014/07/03追記)


I heard there was a secret chord
that David played and it pleased the Lord
But you don't really care for music do you
Well it goes like this:
The forth, the fifth, the minor fall and the major lift
The baffled king composing Hallelujah
Hallelujah Hallelujah Hallelujah Hallelujah

ぼくはきいたことがある
ダビデが主を喜ばせた秘密の和音があると
でもあなたはほんとうは音楽を好んではいないんだろ?
そう、それはこんな風に進んでいく
第四音、第五音、短調が終わり長調が現れる
ハレルヤを紡ぐ困惑した王
ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ

レンブラント
「サウル王の前で竪琴を弾くダビデ」
この楽曲を理解するためには、旧約聖書に関する基礎的な知識がないといけない。古代イスラエル王国二代目の王であるダビデは竪琴の名手だった。旧約聖書には先代の王サウルが悪霊に悩まされているときも、彼の竪琴が王の症状を和らげたことが記されており、はじめの二つの行はその事実を背景として描かれている。
「ハレルヤ」という語自体がダビデが記した「詩篇」のなかで初出した語であり、ヘブライ語で「神を賛美せよ」を意味する。この詩全体が「詩篇」を模した構成になっていることもすぐに気づくだろう。
挿入句的な次の行において、"you"は、動詞が現在形であることを考えると、ダビデではありえない。つまり"you"は「主(しゅ)」、つまり神だろうと推測される。ここからは歌い手の個人的かつ、いささか不遜な態度が読み取れる。
そして次の行ではまたダビデの楽曲の話題に戻る。"the forth" "the fifth" "the minor" "the major" はすべて音楽用語であり、それぞれ「(音階における)第四音」「第五音」「短調」「長調」を意味している。短調とはマイナースケールと呼ばれ一般に暗い調子を持つ音階であり、長調とはメジャースケールであり、その反対に明るい調子を持つ音階だ。
最後の行の「困惑した」の具体的内容は次のヴァースで語られることになる。ここではあえて完全な文にせず、動名詞を用いながら時制を打ち消して、臨場感を感じさせている点にも注目してほしい。

Well your faith was strong but you needed proof
You saw her bathing on the roof
Her beauty and the moonlight overthrew you
And she tied you to her kitchen chair
She broke your throne and she cut your hair
And from your lips she drew the Hallelujah
Hallelujah Hallelujah Hallelujah Hallelujah

あなたの信仰は厚いけれどそれを示さなければいけなかった
あなたは彼女が屋上で水浴びをしているのを見つけた
彼女の美しさが月光とともにあなたの心を掻き乱した
そして彼女はあなたを椅子にしばりつけ
あなたの王権を打ち砕き、髪を切り落とした
そしてあなたの唇からハレルヤを紡ぎださせた
ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ

ウィレム・ドロステ作
「ダビデからの手紙を受け取るバト・シェバ」
ダビデ王はその治世中、自分の部下であるウリヤの妻であるバト・シェバを見初めてしまい、彼女と関係をもってしまう。そのために彼はてひどいしっぺ返しを食らうことになるが、このヴァースの初めの部分はそのことについて語っている。狂気(lunacy)の語が指し示すように、西洋では月の光が狂気をもたらすという伝承があり、それが三行目の歌詞に反映されている。

ギュスターヴ・ドレ
「ダゴンの神殿でのサムソン」
さて、ここまではダビデ王にまつわる逸話で歌詞を読解することができたが、ここからは別のストーリーが挿入されていることに気づいただろうか?かの有名な「サムソンとデリラ」である。ナジル人であったサムソンは神から驚異的な怪力を授かり、「士師」としてイスラエル全体の指導者であったが、決して髪の毛を切ってはいけないと厳命されていた。ところがサムソンは娼婦デリラに入れあげてしまい、ペリシテ人の策略により眠っている間に髪の毛を切られてしまう。ここで盲目的な劣情に溺れていくふたりの男の姿が重ねられている。ペリシテ人に捕らえられたサムソンは目をえぐられ、牢につながれる。そしてある日、ペリシテ人たちが彼らの神ダゴンへ勝利の祝いを行っているとき、神に祈り、その怪力を取り戻し、建物を崩壊させペリシテ人もろとも圧死する。最後の行はそんな姿を想像させてくれる。

Baby, I've been here before
I've seen this room and I've walked this floor
You know, I used to live alone before I knew you
And I've seen your flag on the marble arch
And love is not a victory march
It's a cold and it's a broken Hallelujah
Hallelujah Hallelujah Hallelujah Hallelujah

ベイビー、ぼくは以前ここにいたんだ
この部屋を見たことがあるし、この床を歩いたこともある
知っているだろう、ぼくはきみと知り合う前は一人で生きていたんだ
そしてぼくはマーブルアーチの上のきみの旗を見た
愛は凱旋パレードじゃないんだ
これは冷たく、壊れたハレルヤなんだ
ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ

これまでのヴァースが歴史上のストーリーを語ったものだったのに対して、ここからは歌い手自身のストーリーが展開されていく。歌い手のいる「ここ」には、以前にもいたことがある「ここ」であり、それ以降の文から歌い手は現在恋人と離れ孤独な状態にあることがわかる。
4行目のマーブルアーチとはロンドンのハイドパークにある凱旋門のことだが、女性器を指す古いスラングでもある。"flag"には旗という意味のほかに、「ブラシなのどの毛先」という意味もあるので、この文は性的な暗喩であると解釈される。そして愛とは凱旋パレードのように「華々しい」ものではなく、「冷たく」「壊れた」ハレルヤだと語られる。

Well there was a time when you let me know
What's really going on below
But now you never show you that to me do you
But remember when I moved in you
And holy dove was moving too
And every breath we drew was hallelujah
Hallelujah Hallelujah Hallelujah Hallelujah

昔ぼくに教えてくれたことがあったね
一体何が起きているのかを
でも今ではぼくに何も見せてくれないんだね
でも思い出して欲しい、ぼくがきみと同居しはじめた頃を
聖霊が消えてしまった時を
ぼくらの呼吸ひとつひとつがハレルヤだった時を
ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ

ここで歌詞は、"you"に「恋人」と「主」の二重の意味がかかる状態になる。かつて何でも話してくれた恋人が、今では疎遠になってしまい、以前のことを思い出して欲しいと捉えることも可能であり、一方で神から見放され、聖霊が消えてしまい、預言の下されなくなった王の姿を描き出していると解釈することもできる。

Maby there's a god above
But all I've ever learn from love
was how to shoot somebody who outdrew you
And it's not a cry that you hear at night
It's not somebody who's seen the light
It's a cold and it's a broken hallelujah
Hallelujah Hallelujah Hallelujah Hallelujah

恐らく神はぼくらの上にいるのだろう
でもぼくが愛から学んだことは
きみより早く拳銃を抜くやつを撃つことだけ
そしてきみは夜に叫び声を聴いたりはしない
それは光を見た人間ではない
それは冷たく、壊れたハレルヤなんだ

はじめの行にある「神」"a god"が"the god"でないということが、第一ヴァースの"you don't really care~"における醒めた視線と共通している。「神は愛なり」の言葉からわかるようにキリスト教における神は愛と同義語である。しかし「ぼく」が愛から学んだことは「きみ」を守るために、敵を撃つことだった。そして「ぼく」は「光をみる」=「希望を見出」してはいない。なぜなら「きみ」が耳にするのは冷たく、壊れたハレルヤなのだから。
(2014/07/03)Youtubeリンクを変更。訳修正。


(2014/07/21)Amazonでグレースを検索するとやたら一杯でてくるので、まとめたよ。
おすすめのレガシーエディション。
CD2枚組かつDVD付。
しかし、廃盤なのかAmazonには在庫なし。
1枚目はリマスター版、
2枚目は未発表曲とかライブとか。
3枚目は4曲分のPVとレコーディング、ライブ、インタビュー風景。
曲目は下記のリスト。




レガシーエディションの輸入版。
対訳がなくてもokな人用。
こちらも廃盤なのかAmazonは在庫もってないみたい。
業者からは可能。
単に対訳の有無だけでなく、
ディスク2 のストロベリーストリートがなかったり、
DVDのレコーディング風景がなかったりする。




デラックス版。輸入版。
レガシーエディションからDVDを抜いたもの。
こいつは曲目がのってないのだけれど、
おそらくレガシー輸入版と同じ。




そしてこいつが国内正規版。
ただしリマスター版ではない。



輸入版の旧盤。
リマスター版にあらず。
上記の対訳抜きバージョン



輸入版の新盤。リマスター版。
1曲(Forget Her)追加されてる。
この曲はレガシーだと2枚目の先頭に入ってる。



謎の2010年度輸入版。
オリジナルは1994年、リマスターは2004年。
果たして何が違うのか……




GraceとMystery White Boyの2枚がセットになったもの。輸入版。
コメントにリマスター版じゃないかもとあるけど、
時期的にはリマスター版だと思うよ。
でも"Forget Her"はないみたい。
ハレルヤは2種類聴けるよ。
MWBの曲目は下参照。







グレースとグレースEPsのセット。国内版。
これも"Forget Her"がないけど、
時期的にリマスター版じゃないかなあ。
こちらはライブ版も含めてハレルヤは3種類も聴けます。



あと、詳細不明の業者の出品とかアナログレコードとかは省いたよ。
付加価値をつけて再販するのがレコード会社側の戦略なんだろうけど、分かりにくすぎ。
彼の死後なおも出来るだけリスナーから金を絞ろうとする、レコード会社の姿勢は嫌いです。Amazon側ももっと見やすくまとめろよ……